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ウィッグで外見ケア

がん患った妻と二人三脚

壮春グラフティ

 
 
きっかけは、抗がん剤治療で髪が抜けてしまった妻の言葉だった。
「こんな古くさいかつら、かぶりたくない」。東京都板橋区の河野愛一郎さん(56)は2006年、女性がん患者のためのおしゃれな医療用かつらの開発と販売をはじめた。
妻のこずえさん(54)が、乳がんを告知されたのは03年の11月下旬。二人ともパニックになったが、さらにショックだったのは医師から「抗がん剤治療で髪が抜けるので、かつらを用意して」と言われたこと。
だが、かつらを探してもヘルメットのように大きく重たく、「おばさんっぽい」物ばかり。ファッション業界でスタイリストをしていたおしゃれなこずえさんいは、全然似合わなかった。サイズが合わず、かぶると頭や耳が合いたいと訴えた。
「同じような悩みを抱える患者は多いのではないか。本来の髪型に近いかつらを作ろう」。雑誌編集者を経て、三十代でアパレル関係の会社を設立した河野さんには、「エクステ」と呼ばれる付け毛の販売経験があった。付き合いのあった化繊メーカーや美容師に相談し、医療用かつらの開発をはじめた。収縮性がある水泳帽のようなネットをかつらの裏側に取り付け、頭にピッタリ合うようにした。何百回も試作して、人間の髪の毛の生え方を再現して化繊も植毛。カットもサイズ調整もできるかつらが出来上がった。
ただ、多くの美容師はかつらをカットした経験がなかった。それなら技術を磨いてもらおうとNPO法人「日本ヘアエピテーゼ協会」(東京都品川区)を立ち上げ、美容師のためのかつらの学校を東京と大阪に開校した。三カ月の講習を受けた美容師を協会が認定医するシステムをつくった。

現在、協会認定の美容師がいる美容室は全国に約四十店舗。店で医療用かつらを販売しており、好みに応じてカットしている。協力してくれる美容師は自身や身内ががんになった人も多い。髪の毛が生えはじめるとかつらのサイズが合わなくなるなど、当事者しかわからない悩みに寄り添っている。
かつらを買ってくれた人の中に、がん闘病中の二十代の花嫁がいた。協会認定の美容師が結婚式に付き添い、かつらの毛を結い上げた。花嫁は「この日を迎えられてよかった」と感激していたという。「患者さんが少しでも穏やかで、幸せな気持ちになれるようにお手伝いをしたい」。がんをきっかけに、再出発した夫婦の願いだ。

東京新聞・中日新聞(2013.1.23)
 
 

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